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ニュース詳細

更新日:2016年04月08日

出版助成

平成23年度出版助成

文芸学部 准教授
沼田 知加

Michael Bitz,Manga High:Literacy,Identity,and Coming of Age in an Urban High School (Harvard Education Press,2009の翻訳書出版。
『ニューヨークの高校生、マンガを描く―彼らの人生はどう変わったか』
2300部
岩波書店
ISBN 978-4-00-024287-5

 本書はManga High: Literacy, Identity, and Coming of Age in an Urban High School (Harvard Education Press, 2009) の翻訳です。翻訳書に対して平成23 (2011)年度の出版助成を得られたこと自体が、総合文化研究所の懐の深さを示すものであると思います。文化を深く理解して広く伝えるために言葉の障壁を乗り越える必要がある場合、翻訳はとても大切なものです。にもかかわらず、翻訳書も対象にしている出版助成は、実はあまり多くないのです。アメリカで出版されて間もない時期に、広く日本の読者に本書を届ける道が開けたことは何よりも嬉しいことです。
 日本のアニメやマンガなどのサブカルチャーが海外の若者たちに愛されているらしいーーその現象が「クール?ジャパン」と総称され、日本のマスメディアで盛んに伝えられ始めたのはゼロ年代中頃のことでした。海外の若者たちがなぜアニメやマンガに魅了されるのか、どのように楽しんでいるのか、マスメディアを通した報道だけではなかなか深い理解には至りません。本書は、コミックブック?クラブという放課後活動で、自分の手でマンガを描いたニューヨークの高校生たちの実像に迫ったエスノグラフィーです。国境を超えて文化を享受し、自らの生きる道を探そうとしている思春期の高校生たちに、日本のアニメやマンガが刺激を与えた様子が実に見事に解き明かされています。
 翻訳書の題名は『ニューヨークの高校生、マンガを描く――彼らの人生はどう変わったか』です。原題を文字通り訳せば「マンガ高校―−リテラシー、アイデンティティー、都会の高校で大人になるということ」とでもなるでしょう。本書のあとがきにも書いたことですが、原題の「マンガ高校」からは、マンガでハイな気分になれた高校生たちのお話であることがわかります。読み書き能力を向上させることで、自分が自分であることを確認する。自分の居場所を獲得しながら、大人になるための一歩を見つけ出した思春期の子どもたちの話であることが、長い副題から読み取れます。
 著者のマイケル?ビッツは小学生を中心とした低年齢の子どもたちのリテラシー向上のため、芸術活動をとおして自ら学べるプロジェクトを立ち上げて実践していました。その彼が、思春期の高校生たちの放課後活動に関わるようになった経緯が、本書の第一部に記されています。第一部は、コミックブック?クラブ設立の道筋を丁寧に辿り、放課後活動を実際に支えた大人たちの奮闘も伝えています。その途上で、スーパーヒーローが活躍するアメコミではなく、どうして日本のアニメやマンガに強く引かれるのかが明らかになっています。
 本書の一番の魅力は、第二部にあります。第二部では高校生たちの日常生活が語られ、彼/彼女ら自身が描いたマンガの抜粋が読めるのです。決して恵まれている環境にいるとは言えないニューヨークの高校生たちがマンガに出会い、マンガを読むことでリテラシーを獲得します。彼らはもちろん英語に翻訳された日本マンガを愛読しているのですが、その興味は日本文化や日本語そのものにも広がってゆくものでした。自分たち自身でマンガを描くようになり、それによって自分の人生をどのように切り拓こうとしていたのか――原書に収められていた高校生たちの描いたマンガを残らず掲載し、限られた紙幅の中で日本語訳を付しました。多感な子ども時代に9.11を経験した彼/彼女らが描いたマンガを読んでみてください。自立のために苦闘していた女子高校生の等身大の姿を見ることができます。コミックスに対する渇望を抱えながらイラク戦争に従軍した10代の若者がいます。高校生でホームレスになってしまった男子が描いたマンガを読んでください。全部で9名もの高校生たちの奮闘を鮮やかに伝える物語とマンガこそが、真に価値あるものでしょう。
 本書の翻訳出版に際して、著者から「日本の読者のみなさんへ」という序文と「日本語版のあとがき」が寄せられました。あとがきの冒頭部で東日本大震災を案じ、「本書が日本で出版されること自体、未来を約束する証なのだから」と述べています。あとがきの中で、今ではもう立派な大人になった高校生たちのその後が簡単に紹介されています。本書を日本で翻訳出版できたからこそ知ることのできた後日談です。本書を手にとり、「大人になること」の意味を実感してくださればと思います。